緒言
私自身、マイクロ流路を使った理化学の研究を始めて早数十年。初期の研究においてはPDMSといわれる柔らかいゴムのような素材を使っていました。今でも広く使われており、本当に面白い素材です。マイクロ流路デバイスの作製方法は以下の通り。自分のアイデアとCADに、クリールームに行って複数の工程を経ていわゆるシリコンーSU8で鋳型を作ります。それから上述のPDMSを流し込み、加温して固めて、型から外します。流路を封止するためにガラス基板に接合して、、、。やっと実験ができます。いろいろなデバイスが商品化され、理化学だけではなく健康医療に貢献するマイクロ流路デバイスが出てきました。今では細胞研究や病気の診断、細胞治療・再生医療にも使われています。
しかし、現実にはクリーンルームに入る講義・手続き、数種類の高価な装置を使うので、それぞれの使い方講座を受け、やっとおっかなびっくり使用することになります。時間はもちろん、共同研究施設なので緊張感が走ります。もし使い方が悪くて故障になったら、他の人がしばらく使用できなくなるからです。
もともとマイクロ流路は素晴らしく短時間に、極少量のサンプルで測定結果がでることが一つの売りでした。しかし、学会等でいまだかつて目の前で数秒で結果を出してくれた人は見たことがありません。マイクロ流路デバイスの作製はさらにいろいろな工程があり、大変なのです。
これがいくら良いアイデアが出て実現したいと思っても、Agileでどんどん作りたいといっても進まない大きな理由になっているように思えます。産業界にいたこともある自分としても、やはり同じで、半年、1年でかなりのレベルのアウトプットをして上層部を納得させ、事業化への道筋を立てるのは本当に大変です。なんたって外注したら、マイクロ流路デバイスの到着まで数か月待ち、年に数回しか流路パターンを試すことができないのですから。
このような状況を抜本的に変えるために、マイクロ流路デバイス、特にプラスチック製マイクロ流路デバイスの作製を1日で無理なく終わらせることができる方法を模索し、提言してゆくプロジェクトを開始したいと思います。
これを実現するにはいくつものハードルがありますし、設備などの導入も必要となります。なるべく廉価で十分なハードを選択し、大きな無理なくアカデミックにおいても産業界においてもマイクロ流路デバイスをどんどん作製することができる世界を作りたいです。その先に事業としての発展が見えるはず。数年がかりとはなると思いますが、皆さんとともに進めてゆきます。ご意見、ご協力お願いいたします。
最後に注意ですが、あくまでもここで記載することはプラスチック製マイクロ流路デバイスのプロトタイプを自分で作ることにフォーカスしていますので、いわゆる自己責任となりますし、品質も人それぞれになる可能性が高いです。しかし、1日で作れるベースを提供すれば、それだけでも一つの大きな第一歩のはず。それからどんな世界が広がるか、広げられるか一緒に楽しみましょう。
主な技術的課題は以下の通り
・マイクロ流路デバイスに用いる基板の選定
・基板の加工(切削加工、射出成型)
・接合技術(切削もしくは射出成型された流路基板を基板やフィルムなどで封止する技術)
・付加価値の付与(Inlet outlet Port, 電極、光学検出、圧電素子、センシングデバイスなど)